超重いテーマですが、我々の業界においては避けて通れない問題ですし、実際にこの問題で被害を被っている事業者さん、同業者さん、近隣士業さんなどから話を聞くことは枚挙にいとまがないので、ずっと考えています。
あと自分自身に降りかかった話なので、直近の優先検討事項でもあります。
結論は、程度問題であって、どうしようもない部分は当然残るよなというところです。その前提で、出来る限り永続性、継続性を持たせるための試みをしていこうという感じです。格好いい言葉でいうところのリスクコントロール、リスクヘッジです。
最初に、閉店(続かなくなることをここではこの言葉で言うことにします。生々しいと怖いんで)してしまう類型を考えてみたいと思います。
(1)事業継続に必要な売上が立たない
(2)純粋な廃業(老齢とか死亡とか転職とか)
(3)所長(事業者自身)が諸事情で突発的に就業不可
ちゃんと行政書士の歴史を辿ったことはないですが、僕自身が開業してからの見聞の範囲だと上記の3つくらいに分類できるように思います。また、行政書士で3代目の人は知ってますが、4代目って聞いたことがないので、まあ大体2代目まで続いていると、どちらかと言えば長い方なのではないかと思われます。短命な事業体ですなあ。
(1)はシビアですけど、誰にでもあり得る話ですよね。確か数ヶ月前にどこかの行政書士法人が倒産しましたよね。単純に「2ヶ月の間1件も仕事がない」という問題の場合もあれば、競争のための先行投資が裏目に出るとか、チキンレースにビビってアクセル踏めなくなったとか、入ってくるはずのお金が入ってこなかったとか、色々あると思います。
このリスクを下げるのは、ずばりお金です。お金が続けば事務所が続いて、業務も継続的に行われます。
昔から、大体3ヶ月売上が全く立たなくても事業が回るようなキャッシュを手元に置いておくべきだと商売の世界では言われてるそうです(うちの爺さんが言ってました)。月30万円で自分の手取りも含めた経費が賄えるなら100万円くらいですし、回すのに500万円必要なら手元資金のセーフティゾーンは1500~1800万円くらいです(まあ行政書士業務で月500万円で回すってどうなのよ、という話ではありますが例え話なんで)。
この資金を手元に置けた時から「安定継続的な事業活動」がスタートできると考えた方が健全なんでしょうね。この金には手を出さず、余剰を種銭にして少しずつ規模拡大などを考えていくのが固いんじゃないかと思います。
ということで、(1)のリスクは大体消えたってことで宜しいか。まあでも、実はこの話はあまり本題には関係ないような気もします。行政書士だけの問題じゃないし、行政書士業界における閉店の弊害は、別なかたちで出てくる場合が多いように思います。
(2)と(3)の方がより鮮明な問題なんですよね。以下のようなお話しをいただくことが、ままあります。
- これまで頼んでた人が身体壊して辞めた
- これまで頼んでた人が捕まった(oh...)
- これまで頼んでた人がお年寄りで辞めた
- これまで頼んでた人が亡くなった
- これまで頼んでた人が一般企業に就職して廃業した
依頼者さんは、結果的に迷子になります。総務部がしっかりある、又は総務的な業務をこなすことができる人材をお持ちの会社さんであれば、自社の許認可の状況などをきっちり把握している場合も多々あり、致命的なダメージを負わないこともあるでしょうが、そうでない中小零細企業の場合、事業上フェタルなダメージを負うことも往々にしてあるようです(「何がなんだか分からん」というやつですね。本当はその状況に至ってしまったこと自体が問題なのですがね)。
(2)の純粋な廃業の場合には、少なくとも数ヶ月~1年間くらいは閉店まで時間がある場合が多いでしょうから、きっちり引き継ぎしてあげたらいいのに、と思ってました。ですが、よくよく皆様(迷子業者さん、廃業した人など)のお話しを聞いていると、引き継ぎの体系的なノウハウがないんだな、とも感じるようになりました。業務が人から離れてないんですね。
(と言っても、許認可の場合には法令上(や施行令や施行規則上)手続きが決まっているはずで、それに基づいて各自治体毎に手引きなどを出している場合がほとんどなので、引き継げないということもないはずなのですが。)
行政書士自体は昨今のブームなどにより、登録者数が右肩上がりで増加傾向のようなので(http://goo.gl/muR5mo)、(2)については次第に対策されていくことと思います。なぜなら、下品な言葉で申し訳ありませんが、引き継ぎが事務所経営的においしいからです。なり手が多ければ優秀な人も出てきやすいでしょうから、引き継ぎのノウハウが次第に作られていくのではないかと。
社会学の用語らしいっすけど、「The strength of weak ties」というのをご存じでしょうか。
› The strength of weak ties
本来的な意味とはずれるかも知れませんが、僕は事務所の引き継ぎのような特殊な関係性のモデルには、この「弱い紐帯」が有効に働くんじゃないかと思っています。強い紐帯で結ばれた関係は境遇が似ている場合が多く、廃業する人と近隣者が同じ問題を抱えているんじゃないかと思うんで(つまりおじさま同士ってことですよね)。
ということで、(2)についてもある程度の決着が付きました。みんなちゃんと責任持って付き合って、閉店するならするで責任持って引き継ぐなり、付き合いがなくても依頼者さんが困ることのないような管理の仕方をするなりしようぜ、ということで。あと自分が先々廃業することになるかも知れないですから、広く浅く色んな人とのお付き合いが大事ですよね、ということで。
現段階で、僕が「どうすんねん、対策不能」と思っているのが(3)です。行政書士業界は、1人で運営されている事務所が多いので、その行政書士さんが業務に就くことができないと全部ストップしてしまうんですね。
ただ忙しすぎて手が回らないならいいんですけど、交通事故とか、急性の病気とかだと、(2)のような引き継ぎの段階を経ずにサドンデスな訳で、案件はブラックボックスに入ったまま周囲は眺めているしかない、という状況になってしまうこともあり得ます。短い業界経験ながら、僕自身の周りでも何度か見ています。
これの対策は(2)と逆で、強い紐帯を作っておくしかないですよね。「自分に何かあったら全部任せる」という関係者を決め、更に任せるための手筈を段取りしておく、くらいしか対処法がないように思います。当然、事務職員を雇って組織化するというのも強い紐帯の1類型ですし。
その為には、各人に合理的で合目的的な(ユニークでない)業務の仕方が必要なのかなと。例えばPCのフォルダ内の構成が、自分以外が見てもさっぱり分からないような構成になっているのは、業務継続の観点から見てもちょびっと困りものだ、と言ったら言い過ぎでしょうか。
ぶっつり閉店は何より依頼者に対する影響が大きいので、何とかしたいものだとこのようなことを考えておりました。巷間で囁かれる行政書士に対する微妙な不信任の一端には、これまでこの辺のことを蔑ろにしてきた影響があるのではないかと思います。
こちらからは以上です。ありがとうございます。