事実、つい数年前まで資格業の基本は手書きだったはずですし、依頼者からお借りする過去の書類にはまだまだ手書きのものがたくさんあります。また、不詳私は先の震災時には3日ほど紙とペンだけで仕事しましたし(悲しい思い出ですけどね)。業務自体は紙とペンだけあればできるので、人や物にお金をかけなくても確かに業務自体は成立してしまいます。キャッシュフローが間に合っていれば、余分なお金も必要ないです。僕自身も3年前までこのスタイルを取っていたので、このスタイルの良さもよく知っているつもりです。
特に行政書士においては、業務単価が下がり傾向だということと、一定以上の売上をコンスタントに上げていくのが比較的難しい資格だと言われているため、あまり固定費をかけずに小規模でやっていくのがどうやら王道スタイルになっているようです。
ですが、僕の所属する法人ではこのスタイルを捨てて、人も物も金もかけて事務所運営をしています。理由は主に2つで、1つ目は既に個人ベースの営業スタイルでは何もかも足りないほどに業務が肥大化していること、2つ目はこうすることに合理的に営業上のメリットがあることです。
以下、各項目をどうするか、総論的に挙げてみたいと思います。
人
初っ端から一番重要で重いテーマになってしまいましたが、やはり人が一番大事ですね。言うまでもなく、行政書士は商業の世界で見れば超々零細事業体しかない上に、資格業の特性上どうしても属人的な労働集約になりがちなので、経営課題の中では人のことがとても大きなウェイトを占めます。
僕は高々35歳の若造なので、人の品評にとやかく言える立場でないですが、採用の時に一番重要視するのは人柄ですね。人柄が涼しげで印象が明るい人を好んで採用します。
僕の師匠の言葉で、「行政書士の仕事は日本語が読み書きできればできる」というものがありまして、基本的に僕もこう思っています。できないのは教える側の問題ですので、それは僕の責任ということになります。
ただ、人柄だけは持って生まれこれまでどう生きてきたかでしかないので、僕に矯正することなんてできませんから、採用の段階ではこの点を見ることにしています。
物
行政書士業を行う中で、物と言えるものは事務所ですね。それ以外にももちろん細々ありますが、それらを意識したところで大局に影響しませんし、占めるウェイトで言えば事務所の物件そのものをどうするかにかかってくると思われます。使うソフトがどうとか、スーツの仕立てが良いとか悪いとか、瑣末すぎてどうでもいいですね。
事務所は、どういう物件を借りるか(または所有するか)、場所はどこにするか、この辺がポイントになるでしょう。
ちなみに弊社はいわゆる「いい処」戦略(主に長江ちゃんの趣味と戦略。この辺は総論的に長江ちゃんが追って書きます)なので、テナントもそれなり、お家賃もそれなり、場所もそれなりでやっています。ボロボロで汚くても安くて広いという物件ではないですね。
事務所は上記の「人」を配置する場所としても使いますし、対相談者/依頼者向けのアピールにも使います。事務所がどう見えるのかによって、どういう顧客層が相談に来るのかが変わります。あと面談時に来るのか行くのかも、結構影響しますね。
金
手持ちのキャッシュのことです。うちの爺さまが昔よく言っていましたが、「3ヶ月売上がなくてもお金がなくならないように」ということだそうです。現代的に言い換えればキャッシュフローの3ヶ月分をストックとして持っておくということでしょう。3ヶ月は理想的ですが、どこかから資本が入っていない場合(原則的に士業は資本が入ってないことになってるんで)現実的には結構キツいんですね。
純粋な貯金だとキツいですが、別に融資を受けていけないわけではないので、安定継続的な事業活動のために借入を起こしても、事業にとっては全く問題ないと思います。融資は使うためだけでなく、キャッシュの余裕を生むために使っても差し支えないんじゃないでしょうか。適度な利率と売上比であれば、ですが。
人と物と金を置いておく意味
このようにして、常に人と物と金を手元に置いておくことによってどういうメリットがあるのか、です。
最初にも書きましたが、行政書士業はこれらを蓄えておかなくても業務自体はできてしまうので、つまり簡潔に言うとスモールビジネスとして成立させることができるので、このように人物金に投資することはリスキーのようにも感じます。
実際にこれらを置いておくと、他の事業の比ではないですがすげえ金かかりますよ...。毎日じゃんじゃん金が出ていきます。だから士業で大きな事務所をやろうとすると、所長の手取りはぐっと減ります(涙)。ですが、やはりこれは違いますし、少なくとも我々は違うと信じています。人物金に投資することによって、他のスモールビジネススタイルの事務所では出来ない案件、できない業務量、できないサービスが可能になると思っています。スモールビジネスに目が向きがちな業界だからこそ、真逆の方針にチャンスがあるとも思っています。
実際に(これまでのところ)個人ベースの頃よりも業務量、質、難易度をクリアしています。通常より特異な案件、大きな案件、特異なシチュエーション、イレギュラーな相談などが発生した時には、最終的に人や物の物理的なパワーがモノを言うと思いますし、これまた震災の時に実感したことですが、物理には敵わんのです。
また、説得力の問題があり、物理を背景に説明することと口頭だけで抽象概念を話すことには、やはり大きな隔たりが生まれるように思います。もちろん、抽象論が不要なわけではないですが、我々は事業をしているのですから、説得力があるほうが良いに決まってますよね。信用力、説得力を高めるのに手っ取り早い対策は、物理を埋めてしまうことです(何度も言いますが金はすげえかかりますけど)。
まとめ
実はこれを書く塩谷個人は、物理的なものより抽象概念を好みがちな人間だと思っているので、物がいっぱいあることは苦手なのですが、事業上合理的で合目的的なのであればやるしかねえべ、ということで。