. 行政書士組織論: 行政書士の1人法人化について論考(2)

2019/12/03

行政書士の1人法人化について論考(2)

お世話になっております、塩谷です。

今回は(2)なので、(1)未見の方は先にささっとお目通しいただくと宜しいかと思います。(1)が全然バズってないのに笑、(2)を始めなければならない負け戦感ですよね。いえ、このトピックに興味を持っている方なんて全国に推定100人くらいかと思うので、その100人に届けばいいんです。

› 行政書士組織論: 行政書士の1人法人化についての論考(1)

それで、このことを考えて文章化しておこうというのも、絞りに絞ったらもしかして俺くらいしかいないんじゃないかとすら思えるので、せっかくなのでまとめておきます。行政書士を法人化する際の論点としてストリートのデファクトスタンダードになればいいかなと。法律論としてのスタンダードは誰か他の方にお任せします。


前回は、行政書士法人は持分会社であることで議決と脱退時の保全にポイントがある、というところまで行きました。その他に、まだ持分会社(のうちモデルが合名会社)であることのネックというか、チェックポイントが残っています。合名会社には使用人兼務役員(以下単に兼務役員)という概念がないんですね。行政書士法人の登記上の社員は全員が業務執行権(特定とか社労、取次などは除外)を持つ純粋な役員になります。

これが何に差し支えるのかというと、行政書士は、売上、水揚げ、稼ぎ、どう呼んでもいいですが、経済的に自立することが厳しいと言われている業界で、実務はイケても事業体としてのキャッシュを回すことが(他の業界との比較で)難しいと言われるんです。「うちめっちゃ稼いでますよ!」とか「売上あげられないなんて怠慢」とか多種多様な意見があると思います、そんなことは分かってる、うちだってめっちゃ稼いでる。個別のビジネスモデルを検討しているのではなく業界全体の総論の話や。

一般論として、行政書士の業界は営業的に強い子と強い子が手を取り合って法人化するより、営業的に強い子がそうでもない子を雇用する、というスタイルの方が多いです。法人化する際、そうでもない子を社員にすると、表面上は業務執行権を持つ純粋な役員になるが、この立場で実際上は限りなく労働者に近いポジションにある行政書士さんは、はっきり言ってたくさんいらっしゃることでしょう。業界の特殊性というより、そもそも営業的に強くていわゆる社長さんポジションまで来れる人が社会に少数派だということですよね、それが行政書士になると割合が更に下がるということかと。

(だからといって偉い、すごいことは全然ない。抽象化が少し得意なだけです)

合名会社の役員は労働者性がないものという取扱しかされないので、端的には労基法の対象外です。つまり残業代、賞与などは損金にならず法定の有給付与なし、労働保険対象外など通常の被用者が得られる保証が何もありません。役員になるならそのつもりで、と言えれば話は簡単なのだが、実際には上記のとおり強い子ばかりが役員になる訳ではないから、労働者として保護されないままゴリゴリ残業で保証なしにしてしまうと、潰れちゃうんですね。

(ちなみに残業過多で身体壊しても労災でないんですね、労働保険の対象外だから。名ばかり役員とされ官庁から労基法対象者だと指摘してもらえればその方が却って良い)

第1に合名会社(つうか行政書士法人)の役員たる登記上の社員は兼務役員になれない(=労基法も税務上も労働者性がない)こと、第2に役員になるべくしてなる人と制度上そうなってしまう人には違いがあること、第ゼロに、労働者性のあるスタッフは労働者と同程度に待遇すべきだ、3つのポイントは全て自分の実体験です。労基署、税務署への書面上の照会をして(否認され)、その間にいてくださった登記上の社員が消耗して辞め、労働者として同等に待遇することで定着率が上がり事業の継続性が安定したのは、僕がやってきた旧AIと現FSTGという2つの法人で実際に潜ってきた経緯です。

比較的老舗の資格法人では、形は違えどほとんど同じような経緯を持っているはずで、言わないだけですね。このマターを何らかの方法で解消しない限り事業として続かない危機感を覚えて、様々な方法でカバーしているはずです。ちなみに塩谷は資格法人と別建てのサービス会社を持つという方法にしています。行政書士に限らず、別建てサービス会社の手法が資格法人の界隈では多いように思います。

なお、僕は綺麗事を言うつもりはあまりないし、自分が善人だとも思っていない。そうすることが事業上合理的だと思うから(ついでに規定上も正しいし)くらいの気持ちです。人事的に爆発のリスクを抱えて少しの負担を避けるより、多少の経常的な負担(保険料とか)で安定してお仕事続けてもらう方が僕の会社のスタイルには合ってますね。というか行政書士ってそういう職種だよね。

もちろん真逆の意見があることも承知しています。役員であればゴリゴリやってもらって、役員報酬を多く取ってもらう方が労使双方にとっていいんじゃないか、という意見です。その方針が間違えているとは思わないし、その方が双方にとって合理的な場面も多々あるでしょう。それが合理的に働かず、がちゃーんとなっちゃった局面を自社他社共々何度も見てきたので、塩谷は上記の長ったらしい立場を採っております、俺すごい保守的なんです。

今回のまとめとしては、行政書士法人の社員は労働者性がないから扱い難しいよ、ということで。次、無限責任ってところに行こうと思いましたが、あまりに長いしテーマも重すぎるので、次回があれば次回に続きたいと思います。